可能性を秘めた家と人
三角屋根の新・「木彫の館」
大原町・木工「ヤマニ」内山翔平、倉金未来(みく)さん
大町市平大原のくるみ保育園近くに、三角屋根の大きな家がある。印象的なのは屋根に書かれた「木彫の館」の文字。地元出身の木彫作家、横川欣正さんの工房だった場所だ。「山並美術木彫研究所」として木彫を習う多くの生徒が通った場所でもある。
7年ほど空き家になっていたが、Uターンで大町に戻ってきた木工職人がここを使うことになった。1階部分を賃貸で借りるのは、内山翔平さんと倉金未来さん。
「住居と加工場が同じ場所にあって、材料置き場があって、築48年でもきれいで、いい物件に出会いました」と内山さん。「おとうさん(横川さんのこと)は毎日のようにこの辺を散歩されています。大家さんとの距離が近いのも安心ですね」
この空き家を内山さんが知ったいきさつが、実は面白い。内山さんが20代のころバックパッカーでモロッコを旅していたとき、知り合った日本人がドットベース大町(URLリンク張る)の管理者の一人だったのだ。友人が自分の故郷の大町に住むことになったと聞き、縁を感じた内山さん。自然とドットベースに出入りするようになり、そこで出会った人からこの物件を紹介されたのだという。
原状復帰の条件はなしで借りているので、手先の器用な二人は自分たちで室内を修理している。「畳剥がして天井塗って、壁塗って……。フローリングはメルカリで買いました(笑)」と倉金さん。二人は年内に結婚予定で(おめでとう!)風呂とトイレの修理が終われば、晴れてここで新生活を始める。
内山さんは大町市社地区出身で、倉金さんは東京都大田区出身。二人は長野県上松技術専門校で知り合った。ともに木工職人をなりわいとしている。
「木が好きで椅子が好き、いつか仕事にしたいと思っていました」と内山さん。技専を卒業後、伊那の建具屋で4年ほど修行し大好きな大町に戻ってきた。一緒に大町に来た倉金さんは、以前は椅子張りなど家具の仕事をしていた。今は二人で下請け仕事をこなしながら、生活道具を作っている。「椅子、小物、ペッパーミル、テーブル、キッチン、なんでも作りたい。古材を使うも好きですね」
ちなみに工房の名前「木工ヤマニ」は内山さんの実家の屋号からつけたそうだ。
これからの夢を聞くと「木製のアウトドアグッズを作って、レンタルしてみたいです。ショールームとしてドットベースに置いてもらえたらいいな……。あとは、ここは広いから木を使ったワークショップをしたり、道具をシェアしたり、人が集まる場所になったら楽しそうですね」と内山さん。倉金さんは「田舎が欲しくて大町に来ました。ここが愛せるすてきな場所で良かった。いろいろな縁で木工の館に住むのだから、ここでやる意味のあることをしたいです。そしていつか大町に役に立ちたい」とのこと。二人とも若者らしく、未来志向なのが頼もしい。これからの展開が楽しみな場所が、また一つ大町に増えた瞬間だった。